花笑う、春の色。

季節の変化を、目に肌に、
感じられる頃になった。
「あたたかくなりましたね」
「そろそろ咲きますね」
という会話も嬉しい。

枝垂れ梅

七十二候(しちじゅうにこう)という
季節の表す言葉がある。

「立春」や「春分」などといった
季節を分けて表すのが二十四節気。
それをさらに約五日ずつわけた期間を
表す言葉だ。

梅

三月十日から十四日ごろは
七十二候で
「桃始めて笑く(ももはじめてさく)」
と表す。
花が咲くことを、昔の人は「笑う」と
言ったのだという。
桃の花が咲き出して、
その花を眺める人たちが
昔も今も笑っているのを
想像できて楽しい。

梅の蕾

似桃色(にせももいろ)は、
鮮やかで明るい桃色。
高価な紅花に代わり、
代用の植物で染めた
桃色に似せた色。

この時期は、
梅、桃、桜…と
似た色の花々が次々と
まさに笑うように咲き、
心を春色に染めてくれる。

梅

小学生のとき、
なかよしのグループで
花見に行った。
約束していた日は
例年よりも肌寒く、桜もつぼみ。
それでも、朝からお弁当をもって集まり、
お花見ならぬ、つぼみ見を楽しんでいた。

公園内には、同じように、
予想外に開花しなかった桜を見て、
楽しむ大人たちがいた。

花見提灯

お弁当を食べ終わり、
かくれんぼをしている時に、
遠方から来られたらしい見知らぬご婦人に
声かけられた。

「お花は咲いてないけど、
遠くから見ると、つぼみの色が
にじむように見えて
空気がぼんやりと桜色でしょう? 」
と。

やさしい口調に驚いて、
ぼんやりと桜を見上げると
たしかに、ふんわりと桜に似た桃色の世界が
広がっているような気がした。

梅

遠くから見ること。
空気の色を感じること。

知らない世界が、
それまで当たり前に見ている世界のなかにあった。

ふだん目にするものも
遠くからぼんやり眺めてみれば
またちがう何かが見えてくるのかもしれない。

梅

そんな記憶とともに思い出したのは、
当時、お気に入りだった白いブラウスの
えりに施された花の刺繍だ。
梅でも桃でも桜でもなかったけれど、
春らしい、淡くてかわいい小さな花だった。

梅

何を思い出しても、
記憶の中の焦点を
近くにしても、
遠くにしても、
春は愛らしく美しい。
そして、心の芯を
寒さを越えたやさしさで、
ゆっくりと、あたためてくれる。

はじまりは、白。

白。

和の色(日本の伝統色)の中には、胡分(こふん)、鉛白(えんぱく)、
卯の花色…と、白にもさまざまな色と名前がある。
しかし、いわゆる「真っ白」な色に与えられている名前は、
シンプルに「白」なのだ。
それは迷いも、にごりもない、まっさらの色。

この花の色は、その名にふさわしい、きっぱりとした無垢な「白」。
はじまりは、ここから。