
生糸の入ったスカーフを見つけたと、母が贈ってくれた。
春の終りの空のような、薄い青紫のおうち色。
 おうちとは枕草子にも登場する花、栴檀(せんだん)の古称だ。
実家が織物業だったので、子どもの頃のお手伝いも
 糸にまつわることが多かった。
 そんな日々を忘れないで欲しい
 という気持ちが母にはあったのだろう。
もちろん忘れる訳がなく、この糸を見るだけで、
 故郷が近くにやってきたような優しさに包まれた。
糸は細い。しかし、決して弱くはない。強くものを結ぶ。
家系図を眺めていたとき、
 あぁ人は、こうして過去から未来へと
 糸で結ばれているのだ、と思った。
 誰かがいなくなっても、糸は切れたりしない。
 つながりを保ち、未来につながってゆく。
家系図だけではない。
 今は、ネットワークという見えない糸が、
 遠くにいる人たちと
 瞬時に結びつけてくれる時代だ。
 時間や距離が隔ててしまった人たちとも、
 空のむこうの網の目が
 つながっていて、これからも無限につながってゆく。
いと、をかし。


