静かな聖夜に届くもの。

「残業せんと、早よ帰って。
 今日は、クリスマスやから」。
出先からの上司の電話に、
予定はないと答えられなかった。

琥珀(こはく)色は、透明感のある黄褐色。
ウィスキーや蜂蜜、水飴の色としても
よく知られている色だ。

独身、一人暮らし。
心躍る予定のないその日、
クリスマスでにぎわう街に
一人出かける気にもなれず、
「先生」と呼ぶ、
経理の女性と二人で帰った。

まっすぐ帰ると言う私に先生は、
「若い子がデートの約束もないの!?」
と、驚き、なぐさめ、
市場で、カゴひと盛りの
おいしそうな海老を買ってくれた。

狭い台所の部屋に帰り、
たくさんの海老を塩茹でにした。

こたつの上にドン! と置いて、
殻をむいて食べる。
…おいしい!
予想を上回るおいしさに、
一人黙々と食べていた。

そこに電話。
「あ、いた!」
学生時代の友人が
「今から、プレゼント届けにいく」と
突然の訪問予告。
海老はもう殻だけになって、
何もないことを言うと、
あきれながら「いいよ」と笑う。

しばらくすると、ノックする音が聞こえ、
玄関を開けると、友人が
ラッピングされたバラ一輪を口に咥え、
フラメンコのポーズで立っている。
その隣に、友人そっくりの弟くん。
免許のない友人を乗せて
クリスマスの夜、
わざわざやってきてくれたと言う。

ケーキもご馳走もなく、
こたつにお茶、という殺風景な我が部屋。
けれど、二人がやってきて、
わいわいおしゃべりしていると、
気分が華やいだ。嬉しかった。
誕生日プレゼントを持ってきてくれたと言う。

私の大好きなイラストレーターの
ポーチとマグカップ。
そして、買った時に、
おまけにつけてもらったという、
さっき咥えていた一輪のバラも添えて。

いろんな喜びで胸がいっぱいになって
何かお礼をしようと、
どこかに行く? と誘うと、
弟くんの次の予定があるから
すぐに帰ると言う。

その日、寂しがっているのを知っていたかのように
プレゼントを持って、現れ、笑わせ、
心に灯りを点して、帰る。
二人は、まるでサンタクロースとトナカイのようだった。

にぎやかなクリスマスもいいけれど、
あの日、静かに過ごしていなければ、
あんな驚き、弾けるような喜びは、
得られなかったかもしれない。

なんとなく出かけていたら
クリスマスのにぎやかさに、
余計寂しくなっていただろう。

先日、食器棚を整理していて、
その時にもらったマグカップを見つけた。
ちょっと欠けてしまったけれど、
あの日の嬉しさを思い出すと、
どうしても捨てられなかったのだ。

琥珀は、太古の樹脂類が土中で石化した鉱物。
何千年の時を経て現れ、宝石となる石の色だ。

静かな師走の夜、懐かしい思い出が
何かの拍子に、こぼれるように現れる。
光に透かしてみると、
思い出が溶けて、胸を熱くする。

クリスマスのイルミネーションが
今年は見られた。
昨年見られなかった分、
まぶしいほどに煌めいていた。

華やかな思い出も、
静かでやさしい思い出も、
私の中で地層のように重なっていて
今の自分を作っている。

にぎやかさに笑う時もあれば、
その中で、静かに耳をすます時もいい。

どちらも、琥珀色に輝くクリスマス。

今年も、静かに過ごすことになりそうだけれど、
健やかであることに感謝し、
心穏やかな未来が来ることを祈ろう。

いくつになっても、
サンタクロースはやってくる。