焦色。
 「こがれいろ」と読む。
焼け焦げて黒色に近い「焦茶色」とはひと味ちがう、
 深く渋い赤色。
「思い焦がれる」という言葉もあるように、
 赤い「思色」に通じる、
 感情の「焦がれ」を表しているからか、
 基本の色は燃える色、赤色なのだ。

そんなにも情熱的な名前でありながら、
 思いが時を経て、やさしい記憶になったような、
 滋味ある色にも見える。
この色を見ると、一枚の写真を思い出す。
 家族みんなが精一杯よそゆきの服を来て
 奈良の遊園地へ行ったときのものだ。

父に手をひかれて、たよりない足取りで歩く小さい私。
 見るたびに父の愛情を感じて、
 懐かしく、あたたかい思いになる。
その気持ちは、焦がれるように、
 この時に帰りたいと思うものではない。
きっと、この色が与えてくれる懐かしさが、
 時の経過のなかで
 失くしたものを思い出させ、
 同時に得たものの大切さ、重さを教えてくれるのだろう。
今では、この時の父の年齢も超えてしまった。
 父の生きた年数も、もうすぐ超えようとしている。
けれど、この写真をみると、
 「人ができることは、自分もできると信じて頑張りなさい」
 と、いつも励ましてくれた父の言葉をいきいきと思い出して、
 “さぁ、これから、これから! ”
 と、娘にかえったように若く瑞々しい意欲が漲ってくるのだ。
もうすぐ父の日。
 会えないけれど、今年も、心からの感謝を伝えようと思う。


