
いろはにほへと ちりぬるを──。
 いろはかるたで遊んでいた子どもの頃には
 知らなかったその意味。
「色はにほへど 散りぬるを」。
 さまざまに解釈はあるらしいけれど、
 「匂いたつような色の花も散ってしまう」
 つまり、この世に不変なものなどない、ということらしい。
桜の散る頃は、その言葉に、特に切ない実感がある。
 桜色は、ごく薄い紫味の紅色で、
 染井吉野の誕生以前からある、山桜の色。
 咲き方も散り方も鮮やかで、
 毎春、心をざわつかせてくれる色だ。
今年もたくさんの桜を見た。
 蕾は、春まだきの寒さに縮んでいるようで、
 きりりと引き締まる想いになり、
 満開の桜の下にいると、
 ぬくもりに満ちていて、ほどけた想いになった。
 桜色は、あたたかく、
 やさしい空気も運んでくるのだと思う。
花吹雪の中を歩くと、
 花道を歩いているような心持ちがする。
花道を通っていよいよ舞台へ。
 さあ、朗らかで、嬉しい、春が来た。


 
  
 
