想いをしまう部屋の色。

納戸(なんど)色。
御納戸(おなんど)色ともいわれ、
緑みを帯びた深い青色をさす。

「納戸」という言葉を
知ったのはいつだろうか。
大人になって、家探しを始めたときに
知った言葉のような気もする。

辞書に当たると、
「中世以降は、一般に室内の物置をいい、
 寝室にも用いた」とある。

ほんのりと薄暗く、
ひんやりとしたなかで、
大切な何かが丁寧にしまわれている。
そんな空気を感じる「納戸」。

納戸色の名前の由来は、
薄暗い納戸部屋の色、
納戸の入り口にかける垂れ幕の色、
高貴な家の納戸を管理する役人の制服の色、
と、諸説ある。

どの説であれ、江戸時代から
人気の色であったらしい。

淡い色をも引き立てる色であるのに、
目立つことを嫌い、
控えめでありながら
惹き寄せられる粋な色、「納戸色」。

その名には、和の色に興味を持って以来、
ずっと心惹かれていた。

家の中に、ものをしまう部屋が必要なように、
人も、心の中に
薄暗く静かで、人には見せない
納戸のような部屋を持っていると思う。

大切な思い出、
姿を変えながら光る夢や希望。
ときおり、その部屋をのぞきこみ
励まされたり、反省したり、
こみあげる笑いに、力をもらったり。
歴史をたたんでしまいこんでおく
心の中の、とっておきの部屋。

「今年の思い出」という行李を、
また心の中の納戸に運ぶ時期がきた。

一年という日々は、ながめかえすと
広い海のようで、あちこちに
喜び、悲しみ、失望、愛情、
それに伴う笑顔や涙が漂着している。

深い海の底に落としてしまったものもある。
けれど、思いがけなく、こちらに流れてきてくれて
受け取ったものもある。

人が見たらガラクタのような日々も
成果も、自分には宝物。

そして、それは、海に出なければ、
得られなかったものばかり。

失くしたものを、いつまでも惜しむのではなく
感謝したい。
得られたものは、またより大きく膨らませられるよう
努力したい。

納戸色は、懐の深い色。
この色の海を空を、
それを眺めた日々の心の色を
思い出しながら、
今年の行李を
大切にしまおうと思う。